パワ−ブラシの研磨機構
サンドブラスト、ショットブラストは、研磨面への砥粒吹き付けによる衝撃(Hammering)を利用するものです。一方、砥石研削は、研磨面への砥粒による引っ掻き切削(Scratching)を利用しているものです。これらに対してパワ−ブラシは、衝撃と引っ掻き切削を併用した研磨方法といえます。すなわち、回転につれてワイヤの先端は研磨面に近づき、表面に衝撃を与えたあと、引き続きその位置から引っ掻き切削に入り、やがて離れていきますので、研磨面を痛めることはありません。
衝撃(Hammering)を期待する以上、毛丈は長すぎても短すぎても、最良の効果を期待することは出来ません。研磨目的、研磨面の形状などを考慮して、より適した毛丈を選定しなければ大きな効果を得ることはできません。
一方、引っ掻き(Scratching)効果をより高めるには、素線は被研磨物の材質より硬くなければならないのは当然ですが、繰り返しの曲げによる素線の疲労折損、摩耗および焼き付きなどの問題を考えると、必ずしも硬くて研削量の大きいものが良いとも言い切れないわけです。
線径による変化は、線径が太くなるほど素線の剛性は大きくなり、細くなるほど小さくなります。パワ−ブラシの研磨面への押し付け量を一定にした場合の研削量は、線径が太くなるほど大きくなり、研磨面も粗くなりますが、線材の折損は比例して増加し、事故発生率も高まります。
毛丈については、毛丈が短くなるほど回転ワイヤブラシの剛性は大きくなりますが、柔軟性に乏しくなり、衝撃 (Hammering)効果がなくなり、パワ−ブラシの持つ利点が大幅に減少します。
パワ−ブラシの研磨性能を決める要素として、ブラシの形状、素線材質、線径、構成する素線の密度があり、研磨対象物、研磨目的、回転数などを考え合わせる必要があります。
パワ−ブラシの素線は、いわゆるバネ線であり、研磨面への接触によって素線にはずみ運動が発生する弾性工具(Elastic Tool)ともいえます。
また、パワ−ブラシでは、素線同士の相互保持効果と衝撃による折損防止のため、原則として波付線(Crimped Wire)を使用しています。
安全作業のためのお願い
日本をはじめ世界中のワイヤブラシメ−カ−は、折れないワイヤの開発に努力していますが、それでも絶対に折れないワイヤは存在しません。
そこで、ワイヤは折れるものという前提でブラシをお使いくださるのが、いたずらに事故を発生させない予防策かと思います。すなわち、ワイヤは必ず折れるという認識に立ち、必要な安全措置を講じた上でなければ、ワイヤブラシは使わない、使わせない心がけが必要です。
パワ−ブラシをより安全にお使いいただくために、弊社は現在、鋭い研削力の砥粒入りナイロンフィラメント、『セラグリット』『プラグリット』「エヌグリット』を提供しておりますが、安全作業のために最低限の勧告と取扱条件を製品上(記載不可能な場合は化粧箱側面)に表示しています。しかし、それらはきわめて限られた安全情報であり、必ずしも充分なものとはいえません。したがって、パワ−ブラシをお使いになる方は、製品上に表示されたものと同様に、化粧箱の側面や取扱説明書に書かれたすべての安全指示条件をお読みになり、これに従っていただかなければなりません。
優秀な”パワ−ブラシ”の条件とは
(1)使用目的にあった設計がされていること
(2)高品質な線材が使用されていること
(3)精細なバランスで仕上げられていること
であり、上記の3大要素の一つでも欠けると、安全性、作業性、経済性が著しく低下してしまい
ます。
弊社は1932年(昭和7年)創業より、長い経験と蓄積された技術を基礎に、多くの若い技術者が、従来の工業用パワ−ブラシの概念にとらわれることなく、新しい商品の開発製造に努力してまいりました。
しかし、どのようなすばらしい設計がなされても、製品化する設備がなければ完成させることは出来ません。弊社の生産設備は、国内はもちろん海外の企業に勝るとも劣ることのないものと自負しております。特に、製品開発に絶対必要なテスト機(耐久、破壊、バランス、研削など)を数多く揃えており、ユ−ザ−の皆様の使用目的に充分対応する製品を作ることができると確信しております。
パワ−ブラシ用ワイヤ線材は、用途別に大きく二つに分けることができます。軽作業用に硬鋼線(Hard Drawn Steel Wire)、重作業用にはオイルテンパ−ド線(Oil Tempered Carbon Steel Wire)を使用しております。一般に軽作業用に使用されている硬鋼線は、残念ながらブラシ専用線材ではなく、スプリング材、 ロ−プ材を流用しています。最近は品質を重視するがために、タイヤの補強材として使用しているスチールコード材まで使用されているのが現状です。用途が違うため、ブラシに適した材料でないことは、いうまでもありません。
一方、重研削用ブラシに使用されているオイルテンパ−ド線は、質、量ともに海外線材メーカーに遠くおよばないのが現状であり、今後も国内での生産は期待できないものと思われます。
ブラシ材料にとって決して良い環境ではない現在、弊社では硬鋼線については国内線材メ−カと技術提携し、よりパワ−ブラシに適した専用材を開発すると同時に、独占使用の契約を結んでいます。
また、オイルテンパ−ド線については、海外メ−カ−との技術協力の結果、従来よりも高品質な線材を作ることに成功し、日本国内での独占契約を結ぶことにより、安全性、作業性、経済性に優れたパワ−ブラシをご提供していると考えております。
もちろん、この他の材料(ステンレス線、真鍮線、砥粒入りナイロンフィラメント、化学繊維など)においても、充分に品質に自信がもてる材料を使用しておりますので、安心してご使用いただけます。
弊社は同業他社と同様に、線材保持に固定リングを採用しています。しかし、固定リングと一口に言っても、『固定リング=高バランス』ではありません。加工技術によっては逆効果をもたらし、バランス不良の大きな要因にもなります。
弊社は、線材の折り曲げ加工方法が大幅に改良されたことにより、線材を円周方向に均等に固定するという優秀な製造技術を確立しております。しかし、必ずしも折り曲げ加工後の部品が正確であるとは限りませんので、結合前に部品としてバランサ−にかけ、一定値以上の部品は不合格として廃棄処理し、結合後にも再度のバランスを確認の上、合格品のみ出荷する二重の検査態勢をとっております。このようなことが、弊社の製品がより多くのユ−ザ−の皆様に認めていただいている大きな理由と考え、今後もより優秀な製品づくりのために力を注いでまいります。
安全基準
パワ−ブラシにはカップ型・ホイル型・シャンク型・ロ−ル型など、多種多様のタイプが用意されていますので、作業状況により、最適なブラシをお選びください。
ブラシを不適切に使用しますと、事故の発生につながり危険ですので、不適切な使用はしないでください。
ブラシに過度の圧力をかけないでください。必要以上に圧力を加えてみても、研磨効果は得られないばかりか、焼き付きなどが発生し、ブラシの寿命を短くするだけです。より強い研磨や研削が必要な時には、線径を太くするか、毛丈の短いブラシをお選びください。
3.保護メガネをはじめとする保護具をご使用ください作業時は、バリ、スケ−ル、汚れなどが、折損した線材と共に飛散しますので、事故防止のため保護メガネ、防じんマスク、長袖の作業衣、皮手袋などの保護具を着用して作業してください。また、引火、爆発しやすいもの、傷つきやすいものは遠ざけてください。そして、研磨粉が直接手足などに当たらないようにご注意ください。
4.加工する物をしっかりと固定してくださいクランプや万力などで、加工する物を固定してください。固定することによって、より安全にブラシ作業ができます。
5.無理な姿勢で作業をしないでください無理な姿勢で長時間作業を続けると、疲労からの事故やけがにつながりますので、十分に注意して作業してください。
6.使用工具の回転数に注意してください
弊社のブラシ、化粧箱、カタログなどに表示している回転数は、いずれも最高安全回転数を記載しております。通常の作業においては、この指定速度よりも低い速度でも、十分に効果を発揮することが証明されております。
低い速度と軽い圧力によって、ブラシに長い寿命を与え、摩擦熱を低くし、少ない力で作業ができます。ワイヤ線材で作業をする時は、線材の先端のみに効果があることを忘れないでください。より速度と加圧を必要とする時は、ワイヤの線径を太くしたり、毛丈を短くしたり、エヌグリット(砥粒入りナイロンフィラメント)線を使用することで、線材の先端部および側面部に突出している砥粒の力を利用するとよいでしょう。
ブラシを初めて使用する時は、ブラシを研磨面に数分間軽く押し当てて、ブラシに方向性が見られてから作業に入ってください。試運転をしないで作業を開始すると、事故やけがの原因となります。
パワ−ブラシの概要
[ パワ−ブラシの用途 ]
バリ取り作業に
プレスの打ち抜き切断や金属切削加工などから発生したバリを除去するのに最も広く用いられているのが、パワ−ブラシです。母材を痛めることなくバリだけを取り除き、砥石加工で発生する返りバリもきれいに取り去ります。
ブラシを使用することにより、砥石のように削り過ぎて製品の寸法を変えることなく、初心者にも簡単に使用できます。
ブラシの特性である、ハンマリング、スクラッチング、ワイピングの3つの相乗効果で、より効率の良いバリ取りが可能となります。
ドリルによる穴あけ加工後の交差バリにおいても、砥粒入りナイロンフィラメントの柔軟な側面を使用することで、バリに対して面接点となり、従来の点接点とくらべ大幅にバリ除去効果をアップさせることができます。
また、パワ−ブラシは、他の研磨材では不可能な曲面をはじめとするどのような表面状態でも、ブラシにしか持ち得ない靱性によって、不可能を可能にします。
パワ−ブラシは、線材、線径、毛丈、密度などで、数多くの表面仕上げを可能にしています。母材を削り過ぎることなく、表面の研磨をはじめとする仕上げ加工ができます。
エッジ部分のバリ取り、R付けにパワ−ブラシの作業機構には、ハンマリングとスクラッチングの2つの作用を同時に行える特長があります。衝撃と切削効果により、バリ取りやR付けの作業に最大の効果を発揮します。パワ−ブラシの選定に際しては、バリやエッジの大きさよりも、被研磨物の材質や堅さを基準にしてくだい。
面粗度調整に忘れてはならないパワ−ブラシの用途として、簡単に面粗度調整ができるということがあげられます。すなわち、ゴム、皮、プラスチック、その他非鉄金属等の表面に接着剤を塗布する際は、「肌粗し」を施すことで接着効果が確実に高まります。
クリ−ニング作業にパワ−ブラシは、ステンレス、アルミ、真鍮、鉄などのサビ落とし、ペンキはがしなどのクリ−ニング作業に適しています。また、近頃は、特殊な用途として、黒皮はくりや木材の木目出しなどにパワ−ブラシが使用されることが多くなっています。
[ パワ−ブラシの線材 ]
1.金属
A.スチ−ルワイヤ
ワイヤ線材は、用途別に大きく二つに分けることができます。軽作業用に硬鋼線(Hard Drawn Steel Wire)、重作業用にはオイルテンパ−ド線(Oil Tempered Carbon Steel Wire)を使用しております。
(1)波付線パワ−ブラシでは、素線同士の相互保持効果と衝撃による折損防止のため、波付線を使用しております。
(2)素線同士の相互保持効果をさらに高めるため、同一径をもつ何本かのワイヤ線を撚り合わせて1本の線にして使用します。研削力が増すと同時に、折損にも強い効果が働きます。真鍮メッキ線の線径0.27ミリ×5本撚り、同じく0.35ミリ×6本撚り、および0.38ミリ×5本撚りなどがあります。
(3)オイルテンパ−ド線焼き入れ、焼き戻しを施して機械的性質を与えているもので、巻き癖がない、復元力が高いなどの特徴を持っています。この特徴をいかして、ヒネリ型、フラワ−型の線材に使用しています。
B.ステンレスワイヤ被研磨物の材質がステンレスの場合や、被磁性が求められている場合に、線材としてステンレススチ−ルワイヤが必要となります。ステンレススチ−ルワイヤには、SUS304、310、316などがありますが、共通して耐酸、耐アルカリ、耐熱に優れています。特にSUS304は、代表的なオ−ステナイト系のステンレス鋼で、建築用材、原子力用、化学工業用に使われます。面白いのは、このオ−ステナイト系の304(非磁性)を冷間加工で引き伸ばすと、組織がマルテンサイト系に変わり、磁性が発生することです。
C.真鍮線銅や真鍮製品の研磨に使われます。また、スチ−ルワイヤ に比べて研磨面にサビが乗らない長所を持っています。線材のコシが柔らかく、合金製品の研磨仕上げや毛織物の起毛、木工製品の木目出しなどに利用されます。
2.非金属
A.化学繊維
砥粒入りナイロンフィラメントのほか、ナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニ−ルなどが使われています。
(1)砥粒入りナイロンフィラメントナイロンと研磨砥粒をブラシ用繊維として加工したものです。グリットの鋭いエッジが無作為にあらゆる方向に固定されているため、どのような形状の作業面も確実にとらえることができます。このグリットにはシリコンカ−バイトと酸化アルミの2種類があり、シリコンカ−バイトは鉄など硬質金属の仕上げ用として、また、酸化アルミは軟質金属の仕上げに適しています。研磨性、靱性、弾力性に優れ、湿式、乾式の両研磨に使用できます。
(2)ナイロン代表的な化学繊維の一つです。耐摩耗性、弾力性、柔軟性に富み、アルカリに強く、長期間使用できます。6、66、610、612などがあります。
(3)ポリプロピレンナイロンより硬いので屈曲回復性が高くコシも強いですが、使用中に縦裂けを起こす場合があり、摩耗が速いという欠点もあります。酸、アルカリにはほとんど影響を受けません。
(4)塩化ビニ−ル柔軟性、弾力性に富む一方、引っ張り強度に弱い点があります。酸、アルカリに強い反面、高温に弱いので、常温での使用に限られます。
B.その他日金属線には、科学繊維のほかに、大きく分けて動物繊維(馬毛、豚毛、山羊毛など)と植物繊維(タンピコ、パーム、サイザル、シダなど)がありますが、電動工具、空気工具でハードに使用されるパワーブラシの材料としては、作業効果、耐久性に問題があり、使用される機会はほとんどなくなっております。現在では、メンテナンスブラシの材料としてのみ利用される程度です。
[ パワ−ブラシの規格 ]
1.外径
外径の大きいブラシほど、高い作業効率を発揮する仕上げ工具になります。ワイヤブラシの場合は、外径300ミリが実用的サイズであリ、金属以外の線材の場合は、作業の内容により通常は300〜400ミリが適当です。また、ポ−タブル工具(6000r.p.m)を使う時は、材質に関わらず外径150ミリ以下のサイズをご使用ください。
ブラシの外径は、ホイル型ブラシであれば、円形の中心点を通る直線の長さを、カップ型ブラシの場合は、スカ−ト状に広がった底辺の横断直線を計測します。一般的には、外径でブラシの大きさを表示します。
2.穴径
ホイル型ブラシであれば、ブラシをシャフトに取り付ける際の穴の直径を穴径といいます。ブラシの外径が大きくなると、その重量に対応できるシャフト径も太くなるため、穴径も大きくなります。
カップ型ブラシの場合は、ブラシを空気工具や電動工具に取り付ける際の穴の直径を穴径といい(電動工具はネジ径)、使用する空気工具や電動工具の取り付け径に対応します。
一般的にはブラシ外径が大きくなると、取り付け径も大きくなります。
3.毛丈
毛丈の短いブラシは強靱で(腰が強い)切削作用が高く、長い毛丈のブラシは柔軟性があって、不規則な加工面にもなじむことができます。
計測位置は、ホイル型ブラシであればフランジ外形部から毛先までを、カップ型ブラシであれば保持金具の先端部から毛先までとなります。
4.厚み
通常、ホイル型の厚みは、ブラシの表から裏の寸法で表示します。しかし、毛先間の寸法は一定でないため、正確な寸法表示が必要な場合は、フランジの内面間(正味厚み)の寸法を表示します。
5.密度
密度の高いブラシは、精細な表面仕上げを行うために使われますが、過度の加圧力や極端に短い毛丈などの場合、高い摩擦熱が発生し、ブラシおよび研磨物に大きなダメ−ジを与えると同時に、表面に加工変質層(硬化層)が出来てしまいます。
密度の低いブラシは、非常に柔軟性があり、線材が研磨面にたたきつけられる時にハンマリング効果が発生し、研磨面からサビや酸化被膜などを素早く能率的に除去します。
ブラシ作業を最も効率よく行うには、適正な回転数(周速)と、できる限り低い圧力が確保されるべきです。より大きな加圧が必要と思われる場合には、圧力を増すよりも、線径のより太いブラシか毛丈(トリム)の短いブラシに交換してみることです。
いたずらに加圧することは、線材の折損を発生させるばかりか、焼き付きなどを発生させる原因となります。
ブラッシングの調整法
加工物の送り速度が速すぎる場合
1.回転速度を増加させて、外径をより大きくすることで、表面速度を増加させる。
2.毛丈を短くして線材密度をより密にする。
3.線径をより太くする。
加工物の送り速度が遅すぎる場合
1.回転速度を減少させて、外径をより小さくすることで、表面速度を減少させる。
2.毛丈を長くして、線材密度をより疎にする。
3.線径をより細かくする。
研磨表面により精細さが要求される場合
1.毛丈を短くして、線材密度をより密にする。
2.線径をより細かくする。
3.線材を砥粒入りナイロンフィラメントに変更して、砥粒を細かくする。
研磨表面に光沢がありすぎる場合
1.毛丈を長くして、線材密度をより疎にする。
2.加工物の送り速度を遅くする。
3.線材を砥粒入りナイロンフィラメントに変更して、砥粒を粗くする。
ブラシが必要以上に近接部を叩きすぎる場合
1.フランジ外径を大きくして、毛丈を短くする。
2.線材の両面にウレタン加工をする。
3.線材を砥粒入りナイロンフィラメントに変更して、押し付け圧力を減少させる。
パワーブラシの分類と使用線材